サッカー歴の長い大人の選手がさらなる競技力向上を目指すとするならば、ボールを使ったスキルトレーニングよりも、映像分析によって選手の身体の問題点を探し出し、肉体改造によって修正を加えていく方が競技力向上の効率は上がります。

私が行なっている肉体改造の方法は、ざっくり分けると映像観察、身体観察、トレーニングの3ステップによって構成されています。

ステップ1:【映像観察】選手の練習、または試合中の映像を超スローモーションで分析。
ステップ2:【肉体観察】映像観察によって発見された問題点を、直接選手の身体を検査する事で確認作業を行う。

1と2の観察結果を照らし合わせ、双方の問題が同一のものであるならば、被っていたならば、間違いなく肉体改造によって改善できる事が解る。

ステップ3:【トレーニングメニューを構築、反映】

私が行う肉体改造は、基本的には全てこのような流れをたどります。ここでは、実際に日本代表選手をモデルとし、トレーニングメニューを構築していく流れを解説します。

🔴伊東純也選手をモデルに肉体改造メニューを構築

今回は伊東純也選手を例にとり、トレーニングメニューの構築を行なっていきます。(実際に会って身体をチェックすることはできないので、そこの部分は飛ばします)

伊東選手は右サイドを主戦場とした高速ドリブラータイプの選手ですが、実は、彼自身そこまで突破に適した身体を持っているわけではありません。そんな伊東選手の身体をより強化する事を考える場合、主に考えられる肉体改造は2つとなります。一つ目は、

やや後傾気味である骨盤を前傾させる事です。

伊東選手は鋭い高速ドリブルを持ち味としていますが、アザールやムバッペの様なトップレベルのドリブラーと比べ、やや骨盤が後傾気味です。そして、骨盤の後傾はドリブル時の加速度を低下させます。

伊東選手はスピードに乗った状態でボールを受け、ドリブルに入るシーンが多い選手ですが、それは止まった状態から爆発的な加速で相手を振り切れない裏返しでもあります。一度ストップすると、なかなか加速ができない形、それが骨盤の後傾です。

この後傾した骨盤を前傾させる事で、腰付近にはアーチが生まれ、猫背気味の姿勢も改善されます。こういった変化を肉体に付加する事で、静止した状態からの加速、一歩目の推進力が大きく向上するのです。

ちなみに、加速という意味において現在の日本人選手で最も理想的な骨盤を持っているのが、FC東京の久保建英選手です。現在は細かなドリブルからパスによって攻撃を組み立てるゲームメイクタイプの選手ですが、近い将来必ず爆発力によって相手を置き去りにする高速ドリブラーへと変貌を遂げるでしょう。

それを才能と言ってしまえば訓練で獲得のできないスペシャルな能力に見えてしまいますが、その正体は骨盤の前傾にあるのです。(厳密には骨盤の前傾と、4スタンス理論のBタイプである事)

言うのは簡単、では、実際に何をすれば骨盤の前傾は手に入るのか。

具体的に解説していきます。

🔴骨盤を前傾させエデン・アザールの姿勢に近づける

まずは前提の確認、身体の形を変えるという肉体改造に取り組むとき、具体的に行う作業はいかなる場合でも、

・筋肉を縮める
・筋肉を伸ばす

の二つのみです。

焼肉で肉を焼く際、はじめに火をかけた面が縮み、火に当たってない面は伸び、肉全体は火にかけた方を内側にしてアーチを描きます。肉体改造の原理もこれと同じです。縮めたい方の筋肉を筋力トレーニングによって肥大化させ、伸ばしたい方の面についた筋肉の柔軟性を爆発的に高めることによって身体の形を変える事ができるのです。

骨盤の前傾を目的とした場合、腸腰筋を鍛え、ハムストリング(もも裏)を伸ばす事ができればその選手の骨盤は自然と前傾していきます。以下の画像をご覧ください。

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一般論として『背筋を伸ばせ』とか、『胸を張れ』と言われる事が多いですが、一流選手はそういった意識をしているからキレイな姿勢をしているのではありません。何も意識せずに勝手にその姿勢になっていると言う事を、多くの指導者が見落としているように思います。

重要なのは何も意識せずとも‘‘勝手にそうなる身体’’を作ること。

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(最も爆発的加速に適したエデンアザールの身体)

実は高速ドリブラータイプ選手の中にも、骨盤の前傾が十分でない選手は沢山存在します。伊東選手に限らず、この肉体改造を行う事でそのドリブルの破壊力はグンと向上するのです。

これが伊東選手が改善すべき身体の構造の1つ目になります。2つ目は上半身に手を加えます。

 

🔴手を後ろに振り上げると圧倒的な前傾姿勢ができる。

高速ウインガーとして伊東選手に見つけられるもう一つの改善点が、肩甲骨の柔軟性を確保する事で手を後ろに振り上げられる様にする事です。

身体の構造上、爆発的な加速を産むためには手を侵攻方向とは逆方向へふり上げる事が絶対条件となります。爆発的な加速を持つ選手は皆、加速時には尋常ではないほど後方に腕を振り上げる事ができるのです。

普段のランニングフォームからでも、肘の位置がよく後ろまで下がる身体を持っています。


(ロナウドの肘の下がり方は異常なレベル)

この点伊東選手は一般のプロ選手と比べても腕が体幹部の前側に位置していて、肩甲骨周辺の筋肉が硬いのは一目瞭然です。つまり、ここは大きな伸び代になると言う事です。ここの部分を改善することにより身体は前へ倒れやすくなり、初速の推進力が爆発的に向上します。

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手が後ろに振り上がる人のランニングフォーム。(腕の曲がりが強く、肘が後ろに出ているのが特徴)

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腕が後ろに振り上がらない人のランニングフォーム。(腕の曲がりが浅く身体の真下に肘が来るのが特徴)

手を後ろにも上がる様にする肉体改造は、ストレッチではなく初動負荷と呼ばれるトレーニングを応用させた特殊なメニューをこなす事で、おおよそ10日間で誰の目にも明らかになるほど、大きく改善する事が可能です。

また、一度改善した腕の可動域は、週に1〜2回のトレーニングを5分ほど行えば十分に維持する事が可能ですので、一度やり方を覚えてしまえば選手個人でも十分に維持し続ける事ができます。

🔴ドリブラーを例に取ったが、どのタイプの選手でも肉体改造の構造は同じ

このように、普段の練習や試合から、選手の身体の構造を把握する事ができれば、選手の武器を強化できるのはもちろんですが、逆に長い時間苦手意識を持っていたプレーも克服する事ができます。

今回はその中の一例として、伊東純也の肉体改造を考察してみました。